E pochicom@ksc.th.com 1999/04/08 04:37
題名:喜代美レポート1999NO2

Date: Thu, 8 Apr 1999 02:36:48 +0700
From: Kiyomi &Makoto Uzaki <pochicom@ksc.th.com>

300名の未決、既決の囚人のひとたちの足枷がはずれたんです。 今チョンブリ刑務所でたいへんなことが起こっています。

2月17日にタイの国会の中にある人権擁護委員会に足枷のことを持ち込み、その一ヶ月後には私と人権委員会の人たちで刑務所に調査に入りました。
その後3月25日には現在審議中の公判のなかではありますが、田中さんの足枷の事が憲法違反であることを地裁に訴え救済を求めました。そして裁判所の判断でこの問題は憲法裁判所で審議される事になったのですが、その事はすでに詳しく裁判報告などでご存じだとおもいます。


しかしこの一連のことが影響して、タイ内務省の刑務局からチョンブリ刑務所にたいしてある命令が出されることになったのです。それは、六ヶ月以上足枷を付けていて何も問題を起こさなかったひとで一つの事件だけの容疑で刑務所に入れられている人にたいしては足枷をはずせ、というものです。


その結果460人の足枷囚人のうち300人が今日までにはずされました。月曜日(4月5日)に先ずタイ国籍の囚人のが外され今日の昼前に外国人の足枷がはずされました。今の今、外国人で足枷を付けられているのは田中さんだけとなりました。


田中さんの話では、更にはずされる人が出るという感触で、最終的には100人を切るところまで、足枷囚人の数が減るのではないかと田中さんは予測を立てています。


現実には先ほどの条件に当てはまらない人もはずされているそうです。
一人で事件を複数抱えている人でも、看守との関係がいい人や、いろんな意味で力のある人などが同時にはずされているとのことです。


今回のことは予測していないことでした。田中さんの訴えが憲法裁判所で認められ足枷がはずされる、それから他の人たちに及んでゆくということを考えていました。それが意外にも他の人たちの足枷が先にはずされて行くことになりました。


外国人として唯ひとり足枷をはめられている田中さんはむしろ晴れ晴れとした表情で「この足枷は、こうなれば勲章みたいなものだ」と誇らしげです。

また「ハイジャックをしたのが29年前。その時は、自分の動機がなんであれ、ただ世の中を騒がせ、人心を乱しただけで結果的に何の役にもたたなかった。その後も自分が確かに人の為、社会の為になっていると確信出来たことは一度もなかった。しかし今回はこのことだけでも自分がタイにきた意味があったと思います。50になってやっと人の為に何かが出来たと思えてこんなに嬉しいことはない。自分の鎖は別にいいんです、みんなの鎖がはずれたことのほうが、僕にとってははるかに嬉しいのです」と語っていました。

今年のお正月のことです。まだ児玉さんがチョンブリにいらしたとき、三人での面会は笑い声が出るようになっていました。田中さんは足枷をはめられたまま3年目の刑務所のお正月を迎えていましたが、「ハイジャックをしてから29年のなかで、今年が一番幸せで、充実したお正月です」と田中さんが言うのを聞いて、人間の不思議さをあらためて感じたのです。幸せの形はさまざまです。足枷を付けていても「心は錦」。今日の田中さんの気持は「日本晴れ」なんです。

児玉さんも同様です、私が初めて会ったころの児玉さんとは別人のように明るくとても張り切っておられます。お二人はこんな最悪の環境のなかでもとっても、とっても幸せだそうです。


お二人に言わせると「人を信じることが出来るから」だそうです。一方、刑務局の中は今けっこう混乱状態のようです。児玉さんがチョンブリからバンコクの刑務所へ移管させられた本当の理由を確かめる為に問い合わせをしたときのことです。初めて話す役人ですが私のことを知っているようで、「あなたは田中、児玉の親戚でもないくせに二人に関わりすぎだ。あなたのやっていることは本来大使館の仕事だ。なんで大使館を通さないのか」といきり立って文句を言ってきました。この人は先月29日の足枷裁判のことも知っているようでした。役人の異常な反応をいぶかしく思っていましたが、今はその理由も何かぴんと来るように思います。

刑務局が足枷をはずす命令をだすといいうことは、たいへんなことらしいのです。
29日の刑務所所長の訊問で、所長は「自分のやっていることは憲法違反ではない、その理由はタイ暦2479年(1936年)に出された刑務所法にしたがっている 」と言明しました。ところがその刑務所法のなかでも「未決囚には足枷、手錠類は特別の明確な根拠がない限りつけてはならない」と書いてあるのです。当人ははそのことを知ってか知らずかぺらぺらと喋っていました。例えば、「判決が下りたときは足枷を外している」などと言いましたが、これは明らかに刑務所法違反なのです。

また所長は裁判開始前に必死に「取り引き」みたいなものを持ち出してきていました。「足枷ははずす。しかし食事、シャワーなどの時間を除き独房住まいとする。これでどうか」と執拗にもちかけてきました。そのときの所長の顔つき、動作は見物でした。普段は恐らく威張りまくっているのでしょうに、法廷で田中さんと対峙するのをなんとか避けようとして、あぶら汗、目はしょぼしょぼさせ、手元は小刻みに震えているのです。


法廷で自分の行為が審議されるのがそんなに怖いのなら、やらなきゃいいのにと居合わせた誰もが感じたことでしょう。いずれにしろ刑務所のなかでは刑務所法なんてあっても無きに等しい、まして新憲法の民主主義と人権の条項などまったく念頭になかったのでしょう。足枷の大きさも刑務所法では2種類と細かく決められているのです。しかし、実際には4種類もあるそうです。一番大きいものは鎖の一個の輪が直径10センチほどもあって奴隷時代を思わせるすごいものだそうです。

これから、憲法裁判所での審議がどうなるのか楽しみです。この審議は公開が原則。その時の為に刑務所法などを勉強しなくてはと思っています。
足枷姿の田中さんのところに、足枷をはずされたひとびとが次々に感謝の気持を伝えにやってくるそうです。握手を求めてくるひと、ガッツポーズを示すひともいるし、看守も大多数が喜んでくれているそうです。「ようやったな」と。それを聞いて、わたしのこころもはずんできました。


皮肉なことですが、もし日本大使館が積極的に動いて、田中さんの足枷がはずれていたなら、憲法裁判所に訴えを持ち込むこともなく、その結果300人の足枷もはずされなかったでしょう。


今度の日曜日はお赤飯をたいてお祝いするつもりです。ポチももち米が大好きだからきっと大喜びです。

  喜代美



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