喜代美レポート 

 1999  NO13 発信99/06/10


弁護士にも「会わせない」


今日弁護士チャクッリト氏とともに田中さん の接見に行ってきました。

しかしこの弁護士接見も拒否されるという事態が起きました。

現在チョンブリ刑務所では露骨な「田中シフト」「田中
への報復」がつよまっています。


最初から弁護士の提出した書類を見るなり、担当官らは
自分で判断しなくて、田中関係は所長専決事項になって
しまっているというのです。いくら弁護士接見は誰も妨害
できない筈だと主張しても「とにかく所長のところへ
行ってくれ」とくり返すばかり。

チャクリット弁護士と私は所長に説明を求めにいきました。
しかしその話合いにさえ所長は私の同席を断ってきました。

弁護士によれば所長はこんなことを口走ったというのです。
「喜代美さんは通訳とは認めない。」
「田中のことでいろんなところに働きかけすぎている」
「公判も結審して判決間近になっている今弁護士が打ち合わせ
することなどないはずだ」

弁護士が「なにを言うのか、彼女がこれまでずっと通訳を
やってきたのは周知の事実ではないか」と突っ込むと
何も答えず、ただ「とにかくあいつはダーメなんだ!」
の一点張りだそうです。


また弁護士が「裁判所の判決如何によってどう対応するか
とかまだまだ被告人の依頼者と検討することがたくさん
あるのだ。そんなこともわからないのか」というと
所長は「そうであっても、とにかくダーメ!」

とてもまともに相手しておれる人間ではないのです。
チャクリット氏も「わたしの30年間の弁護士生活のなかでも
こんなことは全く初めてだ」と呆れるやら怒るやら。
「足枷のことで訴えられたことでよっぽど頭に来ているの
だろう。」と話していました。

とても尋常ではありません。カッとなったら見境をなくす
人物のようです。


田中憎しに凝り固まって、考えつく「いじわる」をなんでも
やってやろうということなのでしょうか。それとも
もっと狂暴な神経の持ち主なのでしょうか。そこんところを
いま見極めたいと思っています。

タイ人の誰にきいても「タイ人が足かせ問題で田中さんと
同じことをやったとしてもここまで大きな反響は絶対に
なかったでしょう。外国人だからここまで出来たんだ。」
と言います。


また「タイ人には囚われの身で足かせもつけられたら、
もうそのこと自体をとりあげて訴訟を起こすなどという
発想も普通わいてきません。刃向かったらどういう目に
あうか恐ろしくて出来ない。本当にタイ人の場合だと日常的
に何をされるかわからない状態に置かれているからです。」

事実国会の人権委員会に最近持ち込まれたケースでも
刑務所でちょっと反抗して当局者に殴り殺されてしまった
囚人の家族が相談にきたのを私自身目撃しました。
これが残念ながら現実なのです。

まさに「奴隷の世界」がつづいているのです。それだから
こそ田中さんが所長らを訴えしかもそれが国会や憲法裁判所
で審議されマスコミもとりあげる、ほかの何百人の囚人の
足かせがみんなの目の前ではずされていくという変化を
見て圧倒的多数の囚人が無条件で感激してしまったのです。
とりわけ未決囚人、係争中の被告、ワイロを払わなかった
(払うことができなかった)がゆえに足かせをつけられて
しまっていた人々の喜びようは想像に難くありません。


絶対出来ないと諦めていたことが、一外国人の決起によって
実現してしまったのです。その結果所長らはみっともない
姿をさらすことになったとそれこぞ歯ぎしりし怒髪天を衝く
思いなのでしょう。

国際感覚や民主主義センスがゼロに等しい刑務所当局者らは
ただ「俺の顔に泥を塗ったのだからそれに相応しい報復は
してやって当たり前だ」と感じているにちがいありません。

田中さんのおこなった「行政訴訟」「憲法訴訟」は
刑務局、刑務所当局にとってかくもセンセーショナルで
驚愕的なものだったのです。

とにかく被告にとって最も基本的な権利である「弁護士接見」
すら「気に入らないからダメ」で押し通そうとするこの
神経にはただ呆れるばかりです。


考えてみると、三年間つづいた公判のなかで被告側の
主要な目標は三つに要約できるのではないでしょうか。


一つは、無罪、それも「疑わしきは罰せず」という線での
無罪獲得ではなく、仕組まれた謀略、でっち上げを
証明して完全無罪をかちとること。


二つに、児玉、田中両氏の身の安全を確保し、健康を維持
すること。


三つに、未決囚、被告の立場にある者への足かせは憲法違反
との訴訟に勝つこと。

これらのうちで、一つ目と三つめは相当いいところまできて
います。しかしその二つがどんどん有利に回転してきている
まさにそのときに、田中被告の身の安全問題が起きているわけ
です。これは全く軽視できません。

無罪の見通し、足かせに関しては考え得るベストの状況を
切り開いたと思います。これには天も味方してくれたのでは
という面もあります。


例えば、もし足かせのことを取り組む時期がもっと早かったら
どうだったでしょう。その結果「憲法違反」との裁定が下され
既に田中被告の足かせははずされていたかもしれません。
しかし、そのときは現在起こっている問題も早く引き起こされ
接見、面会もままならず、裁判の取り組みにも多大な影響を
及ぼしていただろうことは想像できます。


指紋のトリックを暴いたりなんてことも出来ないままに終わった
ということも有り得ます。

裁判闘争はいろんな幸運も重なり最高の成果をあげています。 偽札上のでっちあげ指紋の「原本」となった「ハヤシショウジ
名の指紋カード」についてもそうです。


もしも本人のハヤシショウジ氏が証言台に立って下さらなかった
ら反証の印象もかなり弱くなったでしょう。事実ハヤシショウジ
さんの証言が公判全体の流れを変えるポイントになったのです。
児玉章吾さんは、ハイジャック犯と知らずに付き合ったために
偽ドル共犯とされ、すでに二年余牢獄生活を過ごすはめになって
しまいました。しかしそれを田中氏への恨みとせず、それどこ
ろかチョンブリ公判の弁護側証人として証言してくれたのです。
児玉氏の再逮捕は、本来アメリカとタイ検察側の「切り札」と
なる筈でした。ところが、そのもくろみは逆に完全に破綻して
田中無罪へのひとつの「切り札」となってしまいそうな状況な
のです。

田中さんの裁判闘争は多くの方の善意に支えられ、後半の一年半
は法廷内の空気をすっかり変えてしまいました。
今回田中氏にかけられた罪状容疑は冤罪とみら

れますが、
普通の冤罪事件とも大きな違いがあります。
通常ですと、犯罪事実がまずあり、その捜査をやっていく過程
で誤認して無実のひとが犯人とされてしまうわけです。
しかし今回の場合は、「犯人」を定めてから「犯罪事実」
(偽ドル押収といった証拠)が作られていった疑いが濃厚
なのです。

あともう一息のところまできています。それだけに
最後のこの瞬間、油断がならないと思います。

昨日(9日)は結局一般面会(15分間だけ)しかでき
ませんでした。


田中さんも弁護士接見すら拒否されて、心から怒っていま
した。しかし時間がないので、怒っている暇もなく大事
なことを話さなければなりません。


田中さんは、「こうなったら悔しいけど仕方ないです、
喜代美さんにはたいへんだけど、僕が帰るまでできるだけ
多く一般面会でいいから会いに来てくれませんか。
話したいことがいっぱいあります。いままで裁判のことな
どが中心になっていたので、話したいことが他にあって
もあまりはなせなかった。食料の差し入れもいつも心底
有り難いと思っています。だから何とか太ろうと努力
して、此の頃はすこし体重も増えてきたんです。でも今
僕が一番喜代美さんに望んでるいることは一回でもい多く
会いに来てもらいたいということです。」と言っていました。

足かせのことで「ハイジャックをやってから29年、
この50才になって、はじめて人様のためになることが
出来た。それがなにより嬉しい」と語る田中さん。


普通の人間には有り得ないような凝縮した人生体験を
三年数ヶ月送った田中さんはいま日本への身柄移送を前に
して乱れる気持を自制し、「筋の通った身の処し方」を
毎日沈思黙考しているのです。一日に一回はその気持を
誰かに聞いてもらいたい、そしてアドバイスもほしいと
いうのが偽らぬ彼の気持なのだろうと推測しています。


発売中やけど...あまり本やでみないですね。

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