このところ二週間余り私の健康がすぐれなかったこともあって
児玉さんに面会できませんでした。
久しぶりに会ったら、びっくりするほど児玉さんは痩せていました。
なにかひとまわり小さくなったような感じです。
「どうしたのですか」と尋ねると
「このあいだ面会に来てくれたご主人から、喜代美さんが高熱で
寝込んでいてやってこれない、と聞いたのですが、そのあとから
ひょっとして病気なんかではなく、奥さんの身に何か起こったのでは
ないかと悪い予感が走って、そうしたら、睡眠もとれず、食事も
喉を通らなくなってしまった。きょうは病気あがりだけれど、まずは
元気になった喜代美さんの顔が見れて、ほんとにホッしました」
そういって児玉さんは涙ぐんでしまうのです。
彼によれば、このところタイのテレビ、新聞雑誌が田中さんの
公判の動きや足かせ問題を盛んにとりあげ、バンコクの刑務所の
なかでも相当の話題になっています。
児玉さんのところに何人も何人もやってきて、
「あなたが弟と呼んでいる日本人の
ことが出ていた。よくここまでやってくれた。」
「テレビで喋っていたあの女性は、あなたのところによく面会に
きてくれている人でしょ。親戚でもなんでもない人がどうして
こんなに親身になってくれるのか。本当の気持、うらやましい。
われわれなんか、親も兄弟もちっとも会いにもきてくれない」
「それにしても、足かせ問題は刑務局や刑務所のアキレス腱みたい
なものだから、そこを突かれると彼等は激昂するかもしれないよ」
「あなたも、弟分も、それにあの女性も身の安全を気を付けた
ほうがいいよ」
こんなことを言ってきているそうです。
6月23日の判決を児玉さんは指折り数えて待っています。
「弟分の無罪判決が出たら、どんなに嬉しいことか。いまから
そのときのことを考えると、涙が出てしかたない。」
「田中さんが偽ドルビジネスなんかに、なんのかかわりもない
ことはわたしが一番よく知っている。わたしの再審請求の
訴えが受け入れられなくてもまだ我慢できるが、弟の冤罪は
なにがなんでも晴らしてほしい」との言葉が何度も口をついて
出るのです。
児玉さんは、「有罪を唱えるひとびと、とくに検察、警察、
刑務所側がどんどん追いつめられ、無罪の可能性がふくらんで
いくにつれ何か恐ろしいことが起きるのではないか ーーーーーという
不安も募ってくるんです。田中さんは大丈夫かなあ」
とひどく心配しています。
というのも、児玉さんは「偽ドル事件」に巻き込まれ、生まれて
初めて監禁、脅迫、屈辱、強要(それも、アメリカ諜報機関や
謀略機関の)の真っ只中に放り投げられた経験があるからです。
「かれらはどんなひどいことだってやりかねない」
これが児玉さんの実感なのです。
しかし最後に児玉さんはこんな風な言い方をしました。
「わたしはこれまでただの一度も人様から後ろ指をさされる
ような悪いことはしてこなかった。善良なおとなしい猫
みたいなものだった。でもその猫だって、こんなに理不尽な
ことをされたら牙をむきますよ。そういうひどい連中がいるのだ
と判った以上、これからは、わたしはもうおとなしい猫じゃないよ。
虎になるからね。」
そう言うなり児玉さんは、ひとまわり小さくなった体を大きく
背伸びしてみせたのです。
速報!!!いまこれを書いているところに入ったばかりです!
児玉さんの再審請求にたいする回答が近くあるとの情報が入って
きました。
長々と延ばされてきた再審請求への高裁の判断がようやく出ることに
なったのです。まだ日にちはわかりません。
判断の中味もわかりませんが、順当にいけば、チョンブリ公判の
すう勢が「田中無罪」にあるため、それとの整合性をもたせて
再審を認める結論がでることになるでしょう。
しかし、それと反対の見方もあります。「田中無罪」が出てしまった
後では「再審を認める」方向しかなくなるので、それ以前に「却下」
してしまおうという勢力が動いている、というものです。
いずれにしても、6月23日判決を前にして動きは慌ただしく
なってきました。
田中さんが日本に移送されてからの「ハイジャック裁判」について
も児玉さんはとても真剣に考えている様子でした。
「誰にでも隠しておきたい過去はあるものだ。田中さんがハイ
ジャック犯だったことを私に隠しておいたことは、もういい
じゃないか。そのとばっちりで私がこの事件に巻き込まれ大変な目に
あったわけだけど、それを怨んだりはこれっぽっちもない。
悪いのはわれわれを陥れたアメリカだし、その片棒をかついだ
日本の一部のマスコミだ。」
「田中さんとは一緒にやっていきたいことが沢山ある。とにかく
日本の裁判と服役生活を早く終えて戻ってきてほしい。この事件で
中断してしまった事業をまた二人で再開する夢を実現させたい。
このことを弟に伝えてほしいのです。」
もしかすると、タイではもう会えない弟へのメッセージを伝える
児玉さんはポロポロの涙で声もつまっていました。

発売中やけど...あまり本やでみないですね。
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