喜代美レポート  1999  NO10 発信99/05/13

足かせ問題タイ国会をゆるがす


5月12日、タイ国会の人権委員会(正式名称は
正義と人権委員会で委員長は南部タイのハジャイ出身の
国会議員ラープサック・ラパローキット氏)
が田中さんの足かせ問題を主要議題にとりあげて初の審議
をおこないました。この委員会にはチョンブリ刑務所長
と刑務局の役人、刑務局長の顧問、法律専門家、警察官と
田中氏の代理人としての私が呼ばれました。

この人権委員会は私が一番最初に足かせ問題を持っていった
ところです。3月12日には委員会が組織した調査団が
チョンブリに出向き刑務所に入りました
。私も招かれて
加わり、一般の外国人として初めて刑務所の奥まで
視察する機会を得ました。


しかしその後「日本大使館からの正式な要請、もしくは
確かに大使館が足かせを外すことに同意しているという
証拠がなければ委員会としても動きにくい」といわれ、
私も大使館の邦人保護担当の人に「大使館が刑務局宛に
出した足かせに関するレターのコピーを頂きたい」と
御願いしてきました。しかし一向に返事をいただけない
まま日が過ぎてしまい、その結果、国会人権委員会の
足かせに関する動きが事実上ストップしていました。

そういう状況でしたので田中さんはチョンブリ地裁
「足かせは違憲である」とする行政裁判をことを起こし
た訳です。地裁は即日受理し、数日後には双方を呼び出し
事情聴取をした上でただちに憲法裁判所に判断を仰ぐという
裁定を下しました。その後首相の相談機関であるクルッサ
ディカー委員会にも訴状をだしたりいろいろ動いたことは
皆さんご存じのとうりです。

しかし思いがけなく、チョンブリ刑務所長自身が裁判所に
提出した書類の中に日本大使館からのレターなどがあり、
大使館から頂かなくてもコピーは入手でき、足かせ問題が
憲法裁判所に持ち上がった後それを持って人権委員会に
再度要請をしたという経過があります。

国会の委員会もカオソット紙(ホットニュースの意味)が
3日連続で足かせ問題について記事を書いているのを見て
いて、今回は相当やる気になっているようです。
人権委員会の委員長みずから日本大使館に電話をいれ
足かせ問題にたいする日本側の意見も聞いたそうです。
大使館が「田中さんの足枷に関しては遺憾に思ってい
る、何とか外せるようにしたいと考えている。宜しくお願
いします。」というような内容のことを委員長ラークサッ
ト氏に直接訴えたと会議の席上でも発表しました。
とにかく最初の頃より今は勢いが違ってきています。


出席した委員会メンバーは国会議員、国会から委託を
うけた弁護士、国際刑法学者、法律専門家など合計
30数名で、審議の内容は速記記録がとられ国会委員会
議事録として公開されます。

委員長の指名で私がこの足かせ問題に関するこれまでの
経過、どの点が憲法違反であり、刑務所法違反であるか、
人権を著しく侵している実態などを私が説明したあと
刑務所長が釈明をしました。刑務所所長のいったこ
とはこんなことです・・・・

「警察から来たレター(田中は重要犯罪人であるので、
厳重な警備をお願いする)がなかったら、足かせは付け
なかった」

「田中は凶悪犯であるから逃げる恐れがある逃げようとし
ている者は本心を外にださないものだ。信用出来ない」

「いままで田中氏にはいろいろな便宜を図って来た」

「大使館は過去に一度だけ足かせのことを言ってきた、
後は弁護士からの要請の手紙である、何回も足かせの話
をしたというのはちがう」

こうした発言に対して委員会メンバーの方から
「警察からの要請といったって、この書類を見ると
パタヤ警察署の一警察官が書いたものでしかない。
署長の署名もないではないか。こんなものと一国の
代表機関である大使館からの要請書と比べて、あなた
がたはどっちに重みがあるというのか。」
だいたい田中氏にたいして厳重に警備しろなどというの
はその警察のうしろにいる米国がいってきているので
はないのか。偽ドル事件容疑といったら凶悪犯では
ないではないか。」

(最後まで返事はしなかった)

「逃げようとしているという判断はどこからくるのか。
何かはっきりした行動があったのか。ないのであれば
逃げると勝手に考えて足かせをはめているのではないか」

(これも答えがありませんでした)

「刑務所長は私(委員会のメンバーの人)の質問(24時間
2年5ヶ月も足かせをはめっぱなしにすることを人権侵害と考
えないのか)答えていない、貴方が田中氏に親切であったか
どうかなどについて我々は関心がないし訊いてもいない、
貴方は勘違いしている。もう一度ききたい。(この足かせは
人権を犯していませんか、どうなんです。」

(この質問に関する答えもは最後までありませんでした)

刑務局長の相談役の年配の女性は
「刑務所のセキュリティーが不十分なので足かせは仕方がな
いのです」

と言う説明に対して,副委員長が
「おかしいですね、もしそういう問題があるなら何故いままで
その問題を解決する為の予算を計上する申請をしなかったので
すか、するべきでしょう」とつっこんでいます。

(刑務局長の相談役は恥かしそうに唯笑っていました)

「今現在タイの刑務所では奴隷制度のような足かせは基本的に
無くなったと刑務局長から聞いていたが現実はちがっている
ことになる。このことは憲法第33条だけでなく、残酷なあ
るいは非人間的な方法を禁止している憲法の条項をも
犯しているとみるべきだ」

「これは間違いなく人権蹂躪であると思う、判決が出るま
では、無罪、罪を犯していないと見て、その者を扱わなけれ
ばいけないはずだ。」

「何も憲法裁判所の判断を待たなくともあなた達が人権侵害
であると認めて足かせを外せばいい」

私も追加して、「田中さんが足かせ問題をチョンブリ地裁に
訴えた後、チョンブリ刑務所の400人以上の足かせが
外されたという事実
があります。それを目の当たりにして
田中さんは自分は外されなくてもとても喜んでいます。
また警察からのレターは1996年の4月2日です。
最初の8ヶ月はどうして足枷がなかったのでしょう。
これも理由がはっきりしません。要するに我々から見ると、
法律の規定に従って行動してるのでは無く、刑務所側の
勝手な主観的判断で足かせをつけているということのよう
に思えます。」と意見をのべました。


今日の審議の中で、人権委員会のメンバーは誰一人
刑務局、刑務所長側の見解を支持しませんでした。
刑務局側は一方的に押されて終わりました。
会議が終わってから刑務局の人たちは人権委員会の人た
ちに媚びた態度で「なんとか分かってください」
「穏便にお願いしますよ」などと「ロビー活動」を
していたのが滑稽でした。

この会議の中で、アメリカのことが何度も出てきました。
そのつど、各委員はアメリカに対して強気の発言をして
いたのが目立ちました。

こんなやりとりがありました。
「この田中さんは逮捕されたのはどこなのですか」
警察代表「ええと、96年3月カンボジアでです。」
「タイで罪を犯したのではないのですか」
私「本人はタイ国に入国したことすらなかったのです」
「それは、どういうことなんだ。カンボジアで
アメリカが捕らえてタイにもってきてしまったと
いうことですな、これは。」
「刑務所当局はそのアメリカが言ったらそれに従う
ということなのですか」
「なんで、アメリカのいうことだけを尊重して、日本
からの要請は正当な根拠があるにもかかわらず無視し
てきたということだ。」

委員長が各委員の意見をまとめ

「この田中さんの足かせ問題はとても重要な議題である。
我が国の憲法、人権、民主主義にかかわる問題であるし、
国の対外イメージにおおいにかかわる問題なのだ」
としめくくりました。
この委員会は強制力はもちませんが、国会審議や今後の
法案、勧告、視察などなどで重要な影響力をもつものです。
タイ全国弁護士会でもこの田中足かせ問題をとりあげたい
との動きもでています。

注目の憲法裁判所の審議は6月に行われる見通しだという
情報も入ってきました。判決公判(6月23日)の後それ
ほど経たない内に憲法判断が出されるかもしれないのです。
無罪判決と違憲訴訟の勝利、このふたつの成果を抱えて
日本への帰国ということになれば、田中さんのそのときの
姿は決して「無様」ではないと思うのです。


宇崎 喜代美さんへのメールは
Kiyomi &Makoto Uzaki <pochicom@ksc.th.com>だわん


タイ偽ドル 田中・児玉両氏フレームアップ事件全目録