喜代美レポート18  99/6/25

判決のあった日

万感迫るというのでしょうか、そのとき田中さんは天を仰ぎ、低く「ありがとう」と言いながら小きざみにガッツ・ポーズをとりました。

法廷通訳の佐々木さんは、判決読み上げのなかで「無罪」と判った瞬間、胸がつまってしまい言葉がでないのです。そのかわり田中さんの背中を二度三度たたき、「無罪です。おめでとう」とようやく伝えたのです。

誰もが感動した瞬間でした。宮崎さんのくしゃくしゃになったの涙顔をわたしも初めてみました。

完全な勝利、完全無罪でした。


長く苦しかった三年三ヶ月、ほんとうに田中さん、よかったですね。心からおめでとうを言わせてください。そして、身内から「ハイジャッカー」がでてしまったためにおそらく口では言い表わせない御苦労を積み重ねてこられた御親族の方々にも、「とりあえずは最悪の事態はきりぬけましたね。いくらかは安らかなお気持になりますね」と申し上げたいと思います。


日本から自費で判決公判に駆けつけてこられた方々のなかからこんな声が聞こえました。「人間やはり絶望してはいけない。どん底にあってもすこしでも可能性があるなら頑張ってみるべきだ。この裁判だって、こんな最高の結果を生むなんて全く予想もしていなかった。それが実現してしまったのだからーーー 人生捨てたらあかん。これはすごい励ましになった」

「この判決は画期的だ。タイの歴史に残るような裁判だ。タイの司法が世界最大国アメリカの介入を許さず独立した公正な判断を下したのだから」


タイ在住二十数年のひとは「これはタイの民主主義の成長を象徴する判決でもある。以前とは大変な隔たりだ。長くここに住む私でもこんな判決がでるとは思いもしなかった。嬉しい限りだ」と話してくれました。


わたしのきつかったおつとめも劇的なフィナーレとなりました。わたしの苦労を推し量ってきて下さったひとびとから「ごくろうさま」と花束をいただきました。じんわりと嬉しさがこみあげてきました。

「自分を誉めてあげたい」気分もします。いまでこそ話せるようなエピソードも沢山あります。本来なら一番頼りになる筈の弁護士が実はやっかいな障害になったりして、弁護士との打ち合わせのあとチョンブリからバンコクへの車のなかでなんどもくやしさで涙が滲んだことがありました。


でもそうした苦労やくやしさを埋めて有り余るような幸運にも恵まれました。最大の宝は、この裁判を通じてとても日常の主婦生活では考えられないような方々とお知り合いになれたことです。判決直後から既に30通以上のお祝い メールが届きました。いまはすこしグッタリしています。日を改めてお返事させてください。


喜代美レポート19/  99/6/25

  完全無罪判決です



無罪判決から二日たち、報道の嵐も過ぎ去った感があります。とても沢山の方々から慰労とお祝いのメールやら電話を頂きました。そのなかにはこんな質問も数多く寄せられてきました。

日本の新聞やテレビで、「証拠不十分で無罪となった」という書き方が多く、「完全無罪」とは言っていない。本当のところどうなんでしょうか。ーーーーーーこういう声です。

結論から申し上げれば、弁護側の主張をほぼ全面的に認めた完全無罪と言えます。判決文(全文)のコピーが裁判所から許可されるのは二週間後になります。当日は裁判所当局は報道陣に特別の配慮をしてくれました。傍聴席の椅子を増やし廊下にモニターテレビを設置し、そして法廷内での田中さんへの記者インタビュー(カメラ無しの)を認め判決文要旨をプリントして報道陣に配布してくれました。

わたしと佐々木さんのメモ、判決文朗読の録音をもとに現在最も正確な判決文(全文)の内容を確認しようとしているところです。

しかし現時点でもはっきりしたのは、判決は「田中被告を偽ドル事件に結び付ける証拠は無い。」と言っているのであって「証拠は不十分」とは全く言っていないということです。


翻訳正本はのちに全文HPに掲載いたしますが、田中さんに直接関係する箇所の要旨は以下のようになっています。

被告3(田中さんのこと)を有罪とする検察の根拠は、二点に絞られる。共犯者の供述と偽札上の指紋である。共犯者の供述は裏付けがなく証拠にならない。指紋に関しては検察の提出した証拠、証言(ドナルド・C・サーファイト)に疑問があり再度検討した。1238枚の偽札については事務所の出入り口に近い机の引き出しにカギもかかっていない状態で置かれていたとヴァン・ヤロンは証言している。この証言には疑問がある。

被告3が偽ドルに関与したのならこの偽札束を持って逃走した筈である。被告3にはそれが出来た筈だ。被告3が逃げたのはハイジャックの国際手配が及んだと考えたからだという本人の証言は納得できる。

また米国シークレット・サービスは、児玉の通報で偽ドル札の所在を掴んだと言うが、もしもあったとしても、それは田中のものだと言えない。この偽札が本当にあったのかどうか疑わしい。

その偽札上の被告3の指紋に関しても疑わしい。その偽札は1996年3月6日に米国に届けられシークレット・サービスが被告3の指紋一個を検出したとサーファイト氏は証言している。


紙幣の片面に一個だけついていたという証言と、カギのかかっていない引き出しに入っていたという米国シークレット・サービスの証言を合わせると、偶然被告3が偶然触れてしまったことを意味することでしかない。またシークレット・サービスの証人は、他に5枚の偽札から指紋・掌紋が検出されたがと誰のものか不明に終わったと証言した。そうであれば、この偽札はほかの指紋の人物のものとしてもよいわけで被告3のものとする根拠にはならない。

被告3がカンボジアで拘束された際4万ドルの現金を所持していたが、これからも偽札は発見されていない、と米国シークレット・サービス自身証言している。


これらを検討すると被告3が偽ドル犯罪に関与していたとする根拠は無い。よって、被告3には無罪を言い渡す。」

つまり、米国シークレット・サービスの証拠、証言を全て認めなかったということなのです。その証拠、証言は疑わしい、あったとしても弱いし田中氏の偽ドル関与の根拠といえない。あるいは根拠は無いとことごとくはねたのです。これは完全無罪ということではないでしょうか。「被告3に疑わしい点もあるが、立証出来ていない」というのとは完全に隔たった判決内容と言えるのです。

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