「万景峰号」とヒステリー現象

戦うことは熱狂することではない

(アサヒ芸能6/19日号)

キツネ目事件調書

 以下の文章は、万景峰号の入港を前提として書いたモノだが、結局今回はこなかった。しかし、本質はなんもかわらんよってそのまま掲載しておく。北朝鮮問題に関してはこれまで「冷たかった」世論が、その反動でいま沸騰状態にあるが、この反応は、どちらも北朝鮮そのものより危険だ、といってよい。

 サッカーの代表試合なら、勝てなければ監督を糞味噌にけなし、勝てばほめそやしていればよい。それがマスコミのシゴトであり商売だから。だが、北朝鮮問題はそのような娯楽ではない。現実であって、スポーツの疑似行為ではない。自分は安全なところにいて興奮し熱狂する「世論」はむしろ異端排除ヒステリーになりかねないということを、組員は銘記してほしい。自らが戦うことは熱狂することではないのだ。

 なお、なくなった高山登久太郎氏は、韓国の国籍を持って日本に生きた侠客だったが、その生涯はみごとなものであった。「朝鮮問題」とは何かを考える、戦う意志のある組員はかならず「鐵 kurogane」よんでおくように。

                       (宮崎学)

 

宮崎学による高山氏の伝記 「鉄 KUROGANE」


 

北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)の貨客船「万景峰号」、約半年ぶりの新潟港入港である。

 しかしまあ、警察の捜査員増しかり、港に集まったヤジ馬、マスコミしかり、なぜ、あれだけ大騒ぎできるのか。  政府も今回の入港に際して、異例といえる大規模検査を実施した。仮に違法行為の可能性が見つかれば取り締まればいいし、なければほうっておく。それだけの話や。これほど大きな話題になって、何か具体的な結果 が出たかといえば、はなはだ疑問だ。北朝鮮には事前通告がしてある。にもかかわらず、ノコノコと危険なものを積んで来るほど、あの国もアホやないでつそれでも麻薬などが出てきたともなれば、間違いなく警察側の「ヤラセ」を疑っていい。麻薬の密輸なとは、工作船レベルの船で行うのが常識やる。

     では、効果など期待できない中、なぜあえて実行したのか。万景峰号は北朝鮮問題の象徴的存在である。そこに異例の大規模検査をすることを通 じ、われわれもこれほど頑張っているということを、政府は報道してもらいたい。そうすれば批判をかわせるし、あわよくば予算獲得にも有利ーー相も変わらぬ 官僚的発想が根底にあるのは見え見えや。だが一方で、北朝鮮にとっては、結構おいしい話とも考えられる。船内検査をしても何も出ない。だから、われわれの入国を拒否できないのだ、という現実を広く日本人に知らしめる効果 があるからだ。

 

 拉致家族や支援者たちは、「入港すること自体がけしからん」と言うが、入港自体に違法性はないし、国際法上では交戦国以外の国籍を有する船の入港は認めざるをえない。つまり、斑状ではなすすべなしなのである。むろん、船が港に入ること自体に、密輸や密入国の危険性は常にある。しかし、それは北朝鮮船籍に限ったことではない。本気で食い止めたいなら、鎖国するしかないで。

 今回の騒ぎの発端は、米上院の公聴会で亡命者が「万景峰号で武器の部品を運んでいた」とする証言だ。しかし、顔も出さん、どこのだれかもわからん者の言葉に信懸性を見いだすのはどうか。勝手に言っているだけ、という可能性もゼロではない。北朝鮮が麻薬を国家事業として輸出しているのは事実であるし、その最大のお客が日本であることもきわめて確実性の高い情報だ。しかし、すべてが真実だとしたら、それはだれに原因があるのか。金正日か?むろんヤツにも責任の一端はあるが、最大原因は密輸や工作員をパクれなかった警察にこそあるのではないか。警察さえしっかリしていれぱあれほどの数の拉致も起こらなかったのだ。

 検査を厳しくして強硬な政策を取ることもいい。だが、今のままではザルで水をすくうようなものだ。まずはザルの編み目を埋める。これが何より先決である。

  北朝鮮問題に関して、マスコミも国民も過剰反応しすぎではないか、と俺は思う。例えば、くだんの米公聴会での証言についても、仮にそういう事実があったにせよ、いまだ何も立証されてはいない。確証もない段階から大騒ぎする今の日本は、大量 破壊兵器があるはずだと言ってイラクにミサイルを撃ち込んだアメリカとまったく同じだ。さすがにいきなりミサイルをぶち込めという意見は聞かないが、政府内にも単独での経済制裁を可能にした法律を作ろうとする動きも出てきた。

 

 万景峰号についても、アメリカのように国際法とは別の国内法の管轄で、入国を拒否できる体制を整備してはどうかという提案もある。 「開港」への入港は国際法上、拒否できない ただ、そうした法律は結局、もろ刃の剣で、相手も報複として強硬策を取る可能性は高い。それは北朝鮮に限らずである。貿易で経済を維持している日本にとって、この方策が国益にかなうと判断するならやれぱいい。だが、そこまで考えて発言している者など皆無や。多くは単なる感情論での思いつきにすぎん。こうした政策を選択しがちなのは、日本の持っている危機感がきわめてバーチャルだからである。現実としてではなく、イメージの中での盛り上がりを求めるため、過激な方向に進んでしまうのだ。

   北朝鮮問題に関して、韓国は日本より厳しい状況にある。隣り合わせゆえに、ミサイルなど飛ぱすまでもなく、通 常兵器でもソウルは火の海になる。そうした状況下の韓国が取った選択が、太陽政策だった。あえて強硬策を避けたこの選択の理由をよく考える必要があるだろう。日本がこのまま突き進めば、最後に待っているのはとてつもなく危険な状況だ。アメリカを例に考えてみてほしい。かつて旧ソ連とは冷戦関係にあった。当時のソ連は世界の共産化をもくろみ、社会主義を他国に押しつけた。それに反対していたはずのアメリカがその後やったことは利己的なアメリカンスタンダードのパラまきであった。イラク戦争が典型例である。

 要は連鎖反応なのだ。つまり、現在の日本に満ちあふれる北朝鮮に対する反発感情は、日本が北朝鮮と同質になる危険性をはらんでいるのである。極論すれば、自分たちにとって気に食わぬ 者は抹殺すべし。北朝鮮批判への熱狂に異を唱えること自体が異端視される。さすがに今の日本では〃殺し"までしまいが、表舞台から排除することは珍しくない話ではある。  この悪癖を引き継ぐ負の歴史を断ち切るために何が必要か。今こそ考える時期ではないか。つまり、何が原因で何が起こり、その結果 としてどうなろうとしているか。

 以前から言ってきたが、拉致被害者の中で帰ってこれた人と、それがかなわなかった人との遺いを明らかにすることが絶対に必要である。これによって朝鮮労働党の体質も明らかになる。拉致被害者にとっては、労働党に協力せざるをえなかった闇の部分に触れざるをえない局面 もあるだろう。だが、彼らへの温情はひとまずおいて、冷徹に突き放して考えてみるしか拉致問題の解決はないと俺は考える。

 そこには一時的な感情の盛り上がりはむしろ邪魔なのだ。われわれはサッカーのサポーターにはない。現実に眼前で起きている政治や対立はゲームの熱狂と同列で見るべきものではない。人の生き死ににかかわる問題である以上、見物するような娯楽では決してないのだ。

 

万景峰号、新潟港に入港予定

 6月9日、約半年ぶりに北朝鮮籍の貨客船・万景略号が新潟港に来航。関係省庁が連携し、総勢100人余りが監視に当たった。約10年ぶりに船内設備、装備などを立ち入り検査する「ポート・ステート・コントロール」が予定されたが・…。