平成における警察の動向

科学警察研究所年報による警察の研究

    目盛一喜

 

1

 科学警察研究所(科警研)は、犯罪科学の総合的研究機関として警察庁に属し、科学

捜査に関する研究、実験、調査を行っている。

 科警研の業務は、主に鑑識技術・手順の開発、実験、研究が中心であるが、それと

は別に様々な調査が行われており、それが統計資料の元となったり、刑事政策のため

の基礎資料となっていると考えられる。

 それは警察の動向にそって行われている調査であると考えていい。科警研は年報を

発行しているが、それは警察白書には出てこない、もうひとつの警察の公表資料とし

て読むことができる。

 この年報では「暴力団」について継続的に様々な調査研究が行われているが、これ

を追うことで、警察のヤクザに対する動きを読んで行けるものとなっている。

 本稿は平成を中心にしたいが、その前に昭和の最後の数年からはじめることとす

る。

 昭和六十年度には『暴力団員の系列意識の研究』が行われている。ヤクザの広域系

列化の影響の調査である。

 内容は三つに分かれていて、

一、帰属意識、

二、組織への満足感、交流とモラル

三、組織の統制と凝集性

 となっている。

 域組織に属する正組員以上の地位にある三百九十二名を対象とした調査である。

 一の帰属意識については、系列への一般的な所属感は構成員に広く共有されてい

る。

 二の満足感、交流とモラルについては、

(1)所属組織への満足感は組長では高く、組員では低い者が多い。所属団体よりも系

列への満足度が高い。広域化が組織を安定させ、構成員の威光になっている。

(2)系列内の交流は、儀礼的な面は組長が主に行い、仕事面は幹部が中心になってい

る。

(3)まとまりの要因はトップに人格による。資金の安定も重要である。

(4)地位が高いほどモラルが高くなる。

 三の統制と凝集性は

(1)系列の首領の指令よりも、所属する組長の指令が優先する。

(2)跡目継承、解散、独立にあたっては上部団体の証人を必要とする。

(3)系列の凝集性は縄張りの安全性、仕事の容易さ、威力誇示などのメリットによっ

て支えられている。

(4)系列化によって下部団体の資金源が豊かになることはなく、出費はかさむ。

 という調査結果となっている。

 二の(1)にある所属団体よりも系列への満足度が高いということと、三の(1)の系列

の首領よりも、所属する組長の指令が優先するというのは矛盾する。また、系列化に

よって直接的に資金提供などがあるということはないのは、当たり前の話である。だ

が、それでも三の(3)にあるように、仕事の容易さ、威力誇示によって資金的なメ

リットにつながるわけである。しかし、それでもこの調査はよく調べてあると言って

いいだろう。

 だが、これだけわかっているにも関わらず、平成に入ってからは、しゃにむにヤク

ザを人とは思っていないやり方をしはじめるのはどういう事なのだろうかと疑問に思

う。

 昭和六十一年度、六十二年度には『暴力団員の生活構造の研究』が行われている。

「暴力団員の生活実態・生活意識・資金源等について調査し、暴力団員の日常生活の

中において暴力的犯罪活動を支えている要因を明らかにする」ことを目的とした調査

研究である。昭和六十一年十月から十二月に検挙された全国の九百二十五名のヤクザ

を対象に質問紙を使った面接調査を行っている。

 同じ調査が二十年前にも行われており、その調査との比較も行われ、ヤクザの意識

の移り変わりも摘出している。

 調査結果は、

(1)ヤクザの生活時間は仕事よりも遊びに、より多く費やされている。生活目標は

[将来、事業を経営する]、[極道の世界で出世する]ことを目標とする者が二十年

前の調査よりも増えている。

(2)収入は、地位が上がるにつれて債権取り立て、みかじめ料等の非合法資金源に依

存する割合が大きくなる。

(3)地位が上昇するほど納税、住民登録、社会保険の加入等、日常的な生活慣行に同

調する傾向がある。

(4)日常的生活慣行に同調しながらも、非合法活動の利益によって遊びに傾倒できる

ことがヤクザの活動を支える要因の一つとなっている。

 いくつか間違いがある。

 債権取り立ては非合法ではない。脅迫などを含む非合法な債権取り立てが非合法な

のであって、債権取り立て自体は、まったく合法である。

 また、ここにあるように遊んでいられる組長、幹部はいない。組織のために身を粉

にしている人ばかりである。

 そうした点以外は(1)では、遊び人だが、将来は事業をやったり、組で出世しよう

とするまじめなヤクザの姿が見えるし、(3)では、世間を大切にし、歩調を合わせよ

うというヤクザの姿が見える調査となっている。結構なことだろう。

 この年まではこうした調査研究にも見るべきものがあると言うことができる。しか

し、この調査以降、ヤクザに関する調査研究は恣意的で政策的なものとなり、研究自

体の質は下がって行く。

 同じ調査が六十二年度も継続して行われているが、今回は調査資料を統計的に分類

することで、ヤクザをその生活構造から五つに分けている。

一、組織依存型。

二、女依存型。

三、親依存型。

四、社会定着型。

五、下層労働者型

 の五つである。

 はじめの三つは稼げないヤクザであり、後の二つは稼いでいるヤクザである。

 当時はバブル景気も真っ盛りの頃である。世間では経済ヤクザなどという言葉が言

われはじめていた。しかし、そういう時に、下層労働者型のヤクザもいたというのが

興味深いと言える。

 この調査は単独では、ほとんど無意味であるが、実はこの分類が後で意味を持って

来るのである。

 昭和六十三年度には『暴力団の経済基盤に関する研究』が行われた。

 ヤクザの非合法な資金源の調査から経済基盤を明らかにすることを目的とした調査

で、昭和六十一年十月から昭和六十二年一月中の検挙者に面接聞き取り調査を実施し

ている。

 結果は、合法収入は非合法収入の約三分の二であり、合法収入は自営業(金融業、

飲食店など)からのものが多く、非合法収入は債権取り立て、賭博が多い。生活構造

からの類型では、特に社会定着型の非合法収入が多いという結果が出ている。支出

は、収入に応じている。

 バブルの時代に、支出が収入に応じているというのは、ヤクザのまっとうさであ

る。

 ここで注目すべきなのは、社会定着型のヤクザに非合法収入が多いという調査結果

である。これは、警察がヤクザの金に注目していて出てきた調査結果である。

 警察は下層労働型のヤクザなどには目も向けず、最も金を回している社会定着型ヤ

クザに目をつけたわけである。そう、経済ヤクザというのは、この社会定着型ヤクザ

のことだったのである。生活構造によるヤクザの分類は、警察がどこに目をつけるか

に役立つ研究だったのだ。

 平成に入ると、科警研の調査研究は『暴力団排除運動の推進手法に関する研究』と

なって行く。これは平成元年からはじまっているが、平成元年は、はじまった時点で

は昭和であった。つまり、前年の調査研究の上にある調査研究なのである。研究は平

成二年まで行われる。

 平成元年の研究はヤクザ事務所を立ち退かせるための住民運動の調査研究で、運動

を行った住民と警察への聞き取り調査を行っている。暴力団排除運動を「効果的に推

進するための手法を明らかにする」のが目的であった。

 この調査によって、ヤクザ事務所を立ち退かせる運動が、住民運動と言いながら、

実態は警察の肝いりの運動だったことがわかる。

 住民運動という正義を盾に取って、警察はその後ろに隠れたのだ。

 ヤクザの事務所をそれがヤクザの事務所であるという理由で、警察が強権をもって

立ち退かせるようなことをして、警察が表に立てば、立ち退きをさせることが違憲で

あり、人権侵害であることが明らかになってしまう。そこで、警察は住民運動を隠れ

蓑にしたのである。つまり、警察は憲法を越えるために、住民運動の名を利用したの

である。

 また、この住民運動が、後の暴対法への道を切り開くものとなって行くことも見落

とせない点である。

 平成二年の同調査では、特に見逃せないことがある。パチンコ業者への質問紙調査

が行われているのである。

 暴力団排除運動が、住民の迷惑を理由にした事務所の立ち退き運動から、社会全体

に広がる方向を見せているのだ。

 この頃、暴力団排除組織は都道府県単位で二十八(うち福島、群馬、埼玉、千葉、

広島は財団法人)で、市町村単位では実に六百五十が結成されている。

 また、ゴルフ場、保険業、公益事業、宅地建物取引業、不動産業の各業界に運動が

及んでいたという。

 ヤクザの立ち退きに関しては、住宅や住宅併用の事務所は立ち退きが難しいが、独

立した事務所は撤去されやすい。また、構成員が少ない団体は事務所立ち退き運動が

成功しやすいという結果となっている。

 これは小さな組織は警察の圧力によって事務所の立ち退きをさせやすいということ

にすぎない。

 暴力団排除運動は、大がかりなものとなって警察が隠れ蓑とした住民運動を越えて

暴力団の資金源とされる部分に迫って行った。この研究におけるパチンコ業者への調

査は、後のプリペイドカード導入、つまり、パチンコ業界への警察利権の獲得、確保

に結びついて行くのである。

 ヤクザの生活構造の分類が金になっている部分を括り出し、暴力団排除運動が社会

定着型ヤクザを追いつめて行く。露骨だが、確実に詰めを進めているのである。

 平成三年度、四年度行われたのは『暴力団活動が市民生活に及ぼす影響に関する研

究』であった。

 ヤクザの活動が市民の日常生活に与える影響を分析し、市民生活の安全性を確保す

る方策の検討を目的とする研究であった。

 平成三年度の研究では調査対象は少年である。少年がヤクザに対して何を言って

も、基本的に接触がほとんどないのであるから、その点で見るべきもののある調査で

はない。しかし、調査側の意識のありようを見るという点では、実に意味のある調査

となっている。調査する側の意識のありようが、他の調査よりもよく表れているので

ある。

 調査の結果報告に「暴力団文化」という言葉が出てくる。その言葉の内容に、調査

する側、つまり、警察の意識がよく表れているのである。

 警察の意識にある「暴力団文化」がどういうものか、報告から見て行こう。

一、要領のよさ。

二、短絡的享楽主義。

三、宿命主義。

四、労働の蔑視等、勤労や努力の価値を認めない考え方。

五、拝金主義。

六、虚栄。

 など、金が支配する世界への憧れ。

 ついで、

七、復讐。

八、力の誇示。

 など、力による支配への憧れ。

九、親分への絶対服従。

十、生命の軽視。

十一、女性蔑視。

 などが「暴力団文化」の特徴であるようだ。

 まず、要領のよさ、労働の蔑視、拝金主義が「暴力団文化」であるなら、どうして

下層労働者型という分類があるのか、調査結果自体が矛盾しているのである。

 ただ、警察が見ているのが、ヤクザ全体ではなく、警察の分類で言う社会定着型、

つまり経済ヤクザだけであるとすれば、この結果は的を獲ていなくもない。

 警察は経済ヤクザをヤクザとすることで、伝統的なヤクザ像に対して、ひとつの否

定的なイメージを作り上げ、それを叩くことで経済ヤクザのシノギを奪取し、自らの

利権構造を作り上げようとしたのである。

 ヤクザは任侠道に生きることを基本にしており、ヤクザ組織とは任侠団体である。

 すなわちヤクザ文化とは任侠道文化であり、警察の言う「暴力団文化」とは相容れ

ないものだ。

 確かに、現実には「暴力団文化」がヤクザ本来の任侠道文化を浸食している面があ

るところに、ヤクザにとっての現在の問題があるのも事実だ。しかし、それでもここ

に示されているところまでヤクザが荒廃してしまったら、日本の治安の維持は警察で

は不可能になってしまうであろう。

 平成四年度の同調査も、主に少年への調査を行っている。この調査の特徴は、マス

メディアの影響に言及している点にあるだろう。

 報告の中で、報道からはヤクザに対する否定的なイメージが形成され、フィクショ

ンからは人情に厚く、団結力が強い、男らしい肯定的ヤクザ像が形成され、否定的な

イメージが弱まると指摘している。

 これは興味深い指摘である。報道はよく知られているように、警察発表をそのまま

垂れ流しにしているだけのものが多い。記者のほとんどはヤクザを取材した事などな

いのである。それに比べて、良心的なフィクションの作り手はヤクザを直接取材し、

作品を作っている。ビデオのVシネマなどには、そうした作品も多い。実際の人を

知っているという意味では、報道よりも真実のあるフィクションなのである。

 要するに、この調査は、ヤクザに直接取材したものではなく、警察発表のみを優先

することを要求し、また、ヤクザを肯定的に感じさせるものはフィクションであると

決めつけているのだ。

 この調査は、その内容よりも「暴力団文化」を列挙することで、ヤクザのイメージ

を経済ヤクザに固定する、そもそもの出所としての役割を果たしている。また、ヤク

ザ自体の現状、実態の調査研究ではなく、メディアによるヤクザのイメージのもたれ

方に主眼があるという、ふたつの点で興味深い。

 この調査報告は研究内容よりも、「暴力団文化」という虚構を世に送り出したとい

う意味で、重要な報告となった。

 暴対法の年報から、暴対法前夜までの警察の動向を読んだ。暴対法はこのように準

備されて来たという流れが、恣意的な情報の操作から浮かび上がって来た。

 次回は、暴対法から現在までの警察動向を、やはり科警研の年報から読み解いて行

くこととする。

 

 

2

 前回、昭和の終わりから平成四年度にかけて警察が政策的に「ヤクザ文化」なるも

のを捏造し広報する事で、ヤクザを本来の姿から離れた経済ヤクザに限定して金に汚

い悪のイメージを流布させる下準備として、科学警察研究所の調査を行ったのを指摘

した。

 その間、暴力団事務所立ち退きの住民運動を支援するという警察の動きが、なぜか

パチンコ業界への圧力につながって行った。

 ヤクザの事務所の立ち退きとパチンコ業界という関係のないものに、無理矢理に言

いがかりそのものの関係をつけて、警察はパチンコ業界への浸透を図ったのである。

 目の覚めるようなという言葉があるが、この場合は、目を覆うような離れ業だっ

た。

 科学警察研究所は指紋採取方法や音声鑑定などの鑑識研究だけでなく、刑事政策の

前提となる調査も行っているのである。

 この科警研(科学警察研究所)の年報から、さらに警察の動向を探って行こう。

 平成五年度には「暴力団の離脱と社会復帰に関する研究」が行われた。

 目的は

「暴力団員の離脱と社会復帰に必要な条件を明らかにする。今回は暴力団対策法が暴

力団に、また組員の離脱にどのような影響を与えたかについて報告する」

 としている。要するに暴対法のお手盛り評価をしようというわけだ。

 方法は「暴力団組員である検挙者千四百四十人を対象に、平成五年一月から二月に

かけて質問紙を使った聞き取り調査である。

 その結果、暴対法施行後の一年間、取締の強化、世間の風当たりの強さ、シノギの

しづらさ、加入者の減少、離脱者の増加、他団体とのトラブルの減少等があったとい

う。

「暴力団組織としての対応では事務所の看板、代紋、名札をはずして組の存在とメン

バーを隠蔽し、他組織や一般市民とのトラブル禁止や組の名前を出すことの禁止等の

指示を出すこと等が標準的な対策である。一部、会社組織に変更する組もある。これ

らの対応は山口組が最も積極的に行っている」

 という。

 ここまででこちらが指摘する点としては、取締の強化の実態は、ヤクザだからと

いって、無闇なガサ入れを繰り返すなどであり、これは、徹底的な人権侵害だという

事だ。次に、世間の風当たりの強さなるものの中身は、警察が組長と親しくしている

と認定した人物に対して、警察に呼び出すなどの圧力をかけた事が間接的なヤクザへ

の圧力となった(この方がヤクザには精神的にキツイ)というものであるなどがまず

ある。

 それから事務所の看板、代紋、名札をはずしたのは警察からの圧力があってした事

であり、「組の存在とメンバーを隠蔽」するためではなかった事も指摘しておく。

 さらに言えば、「他組織や一般市民とのトラブル禁止」は、別に暴対法とは関係な

く、それまでもあった事であり、軽々しく組の名前を出すのがもってのほかであるの

はいつの時代でも当たり前である。

 この調査者は調査対象であるヤクザについて、あまりに無知か、意図的に調査をミ

スリードしている。

 この調査は、シノギに注目し、暴対法の影響とともにバブル経済崩壊の影響がある

としているが、結論としては暴対法は暴力団に対して強い影響を与えている。また、

「シノギが困難になり、暴力団加入の魅力が減少し、加入者減、離脱者増の傾向にあ

る。暴力団の人的・経済的資源を大幅に減退させる絶好の機会である。取締の強化、

離脱の促進等、硬軟とりまぜた多角的な暴力団対策が望まれる」

 としている。

 ここで重要なのは、「経済的資源を大幅に減退させる絶好の機会である」という部

分である。暴対法以後、経済的資源が警察のものになって行った。警察にとっては、

まさに絶好の機会だったのである。

 この「暴力団の離脱と社会復帰に関する研究」は平成八年まで続けられているが、

平成六年の研究は離脱を促進するとみられる要因を摘出し、平成七年の研究では、離

脱後の就労継続の条件を明らかにし、平成八年の研究では離脱者の状態の報告となっ

ている。

 科警研の調査は二年一区切りで行われる事が多いが、この調査には四年もの期間が

あてられている。これは、暴対法が効果的な法律であった事を証明するためだったの

ではないかと考えられる。

 暴対法は平成四年に施行され、翌平成五年に改正法が施行されている。調査が暴対

法施行の年である平成四年から実施されたという事は、調査の理由として暴対法以外

には考えられないのである。

 これを念頭に、この四年間にわたる調査を見よう。

 平成五年に、二ヶ月の調査で暴対法の効果をうたった調査であるが、二年目は平成

五年六月から平成六年一月まで、八ヶ月をかけて現役ヤクザ三百五十一名と、と暴対

法施行後に隠退した者二百八十三名を対象に、アンケート調査を行っている。

 その結果「暴力団からの離脱を促進するとみられる要因」とは、

 

一、覚醒剤の継続的な使用経験、指詰め、入れ墨がないこと。

二、家族との愛情的関係が回復されていること。

三、離脱にあたっての適切な相談相手がいること。

四、暴力団での人間関係がうまくいかないこと。

五、これまで経営してきた合法的事業で生活できる、自分に適した職業が見つかると

いったような、離脱後の生活の見通しがついていること。組員時代、非合法収入にあ

まり依存しないこと。

六、「享楽的生活ができる」「仕事上都合がいい」といった暴力団生活のメリットを

喪失している。

七、暴力団が有する独特の文化や価値観―拝金主義、労働蔑視、見栄の意識の強さ、

短絡的快楽主義等へ同調しないこと。

八、暴力団における地位上昇志向を持たないこと。

九、組側が離脱者に追い込みをかけるなどといった圧力をかけていないこと。

十、所属団体の力が弱体化していること。

 

 ということになる。

 ざっと見て、これはヤクザが務まらない者、ヤクザを利用して金を得たいようなハ

ンパ者である事が離脱の条件であると言っているにすぎない。

 組での人間関係がうまくいかない者、ヤクザのメリットを喪失し、合法的な稼ぎで

生活ができる者、ヤクザの文化や価値観(拝金主義、労働蔑視ではない、任侠道)に

同調できない者などが離脱に適しているというのである。これらは、離脱に適してい

るのではない。追い出されるような人間である。

 これはヤクザを馬鹿にし、下に見ているから出てくる言葉である。

 それは一の覚醒剤の使用と指詰め、入れ墨を一緒にしている点に端的に表れてい

る。ヤクザにとって指詰め、入れ墨は問題ないが、覚醒剤中毒ではヤクザはやって行

けない。

 ヤクザをきちんと調査したら、そのぐらいはわからなくてはおかしい。

 覚醒剤中毒が堅気になるのは無理だろうが、ヤクザも無理なのだ。この項目立ては

ヤクザが覚醒剤中毒であるという偏見である。

 そして、この程度の調査では、ヤクザをやめた者が本気で社会復帰をしようとする

場合のためにもならないと言える。

 平成七年度の調査は離脱者の離脱後の状況についてである。離脱者二百七十三名と

雇用主三百二十五社に対してアンケート調査を実施している。平成七年十月から平成

八年一月までの期間に行われている。

一、離脱者の就労形態は

 「組員時の仕事継続 一七・二%」

 「新規就職―継続 五〇・六%」

 「新規就職―転職 二六・七%」

 「離脱後未就労 五・五%」

 にわかれる。

二、離脱時に最も不安に感じることは、離脱した組との接触ならびに就職先、収入の

確保である。

三、離脱後の転職については、解雇されるケースは少なく、ほとんど自分からやめて

いる。転職理由で最も多かったのは「仕事の内容がきつい」「給料が安い」などの待

遇面と、職場での人間関係であった。元ヤクザであることによるトラブルは比較的少

ない。

四、仕事の継続に必要な条件で最も多いのは、身近な者の心理的支えと、仕事上必要

な技術的、社会的スキルである。ついでヤクザのレッテルを再び貼らないような周囲

の者の態度である。

五、離脱後の雇用について雇用主が抱く不安で最も多いのは、現役のヤクザと完全に

縁が切れているかどうかである。ついで入れ墨や指詰めがあること、客や従業員との

トラブルが生じることである。

六、雇用主が離脱者を採用する条件としては、警察や暴追センターのサポートが常に

得られること、離脱者が暴力団から縁が切れていることである。

 

 なんともパッとしない調査結果だが、転職について、解雇されるケースが少ないと

いうのは、自分から辞めるようにし向けられての事のはずだ。辞める、あるいは辞め

ざるを得なくなる理由は様々だが、いちがいにヤクザだったから務まらなかったとい

うことはないはずである。

 もうひとつ仕事の継続に技術的、社会的スキルが必要であるなら、刑務所での仕

事、そして、仕事の結果の報酬をきちんとすべきであろう。そうした手当もしない矯

正システムには大きな問題がある。

 次に平成八年度の調査だが、期間はあきらかではないが、離脱者二百七十三名と雇

用主三百二十一社に対するアンケート調査を実施している。

 調査の結果、離脱後の就労状況は、

 有職者 九〇・一%(二百四十六名)

 無職者  九・九%(二十七名)

 有職者のうち、離脱後も組員時の仕事を継続している者(四十七名)は、全体的に

年齢が高く、首領・幹部層が多く含まれる。職種も自営業が五三・二%を占め、収入

も多いため、離脱時の不安感も金銭面では低い。

 残りの有職者は、離脱後に新規就労をして継続している者が百三十八名、一回以上

転職している者は六十一名であり、いずれも年齢層が低い。転職体験者の方が十代か

ら暴力団に加入していて、カタギ時代の就労体験がない者が多い。

 事業主の業種は土木・建築業が六0・一%でもっとも多く、ついで運輸・運送業が

一六・二%を占める。元暴力団員を雇用することへの懸念は、接客を主とする業種で

多くシメされる。また、過去に元暴力団員を雇用したことのある所は、懸念が低く

なっている。

 

 平成七年度と八年度の調査結果がまったくちぐはぐなのはどうした事だろうか。七

年度の調査のように、あまりに離脱後が厳しいという事になると離脱をすすめる事が

できなくなるので八年度には調査対象を調整し、結果をシフトさせたという事か、あ

るいは、八年度の調査対象が、ただ安定していたという事かわからない。

 こうした事もわからない調査に何の意味があるのかと思うが、それよりも暴対法の

効果を喧伝するための調査だったはずが、四年目にはまったく不鮮明なものになって

いる。そこに暴対法の効果のありよう調査意図とは逆の形で透けて見える。

 未曾有の人権蹂躙を断行した法律である暴対法は、その刑事政策の意図としては失

敗に帰し、ただ、警察の裏利益の追求にのみ役だっただけなのである。

 ヤクザは、人としての権利を奪われながらも、この困難に耐え、暴対法以後の時代

を生き延びて来た。尻すぼみに終わった調査は、そうした事の表れである。暴対法

は、その根本において役割を果たせずに終わっていると言うことができるだろう。

 だが、法務官僚は盗聴法、証人保護法、マネーランドリング法からなる組織犯罪対

策法を用意し、それは今年、平成十二年から施行された。平成九年度、十年度におけ

る調査は、その下準備とも言えるものと思われる。

 調査の表題は「組織犯罪の防止に関する研究 暴力団収入の推計方法に関する研

究」となっている。

 組織犯罪という言葉を使っている事で、これが組対法に関連する研究である事がわ

かる。しかし、この研究がはじまった平成九年度と十年度の科警研の年報には報告が

掲載されていない。

 表題から読みとれるのは、これがヤクザの収入に関係する研究であるという事であ

る。

 収入の推計を行うという事は、収入源の特定を前提としている。別の言い方をすれ

ば、警察によるヤクザのマーケットの調査なのである。

 これまでの経過を見て来ると、警察がここに目をつけ、自らの利権とする野望を

持っていると考えるのが筋だろう。

 警察は、ヤクザが果たしてきた社会的な役割には目を向けず、その収入だけに目を

つけた。これがこの10年で起きた事態である。

 

実話時代BULL 2000/10.11月掲載

 

 


 

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