福島保険金殺人に見る

「老人力」の暴走

これからの犯罪は高齢化も進むとゆうとったやろ

 

            (アサヒ芸能 12月13日号 キツネ目事件調書より )

今週のテーマ

福島・保険金殺人

今年6月、栃木県藤原町の中島ミヨ子さん(77)目当時目を保険金目的で交通 事故を装い殺害。容疑者は中島さんと共同生活をしていた田代タツエ(73)、上杉シケ子(62)、渡辺実(52)、安田寺男(63)の4人。さらに渡辺容疑者は別 件の強盗殺人容疑で逮捕されていた。

 何ともぞっとする事件が起こった。福島県で起きた保険金殺人事件である。

 保険金殺人と聞いても、最近は「またか?」程度にしか感じない時代だが、今回の事件は過去のそれとはかなり異質なのだ。

 最大の特徴は、事件の登場人物が全員、高齢者だということである。

主犯とされる田代タツエ容疑者の73歳を筆頭に、4人の逮捕者の平均年齢は62・5歳。まさに、老人パワーの暴走である。

 俺は以前から、今後の犯罪は低年齢化とともに高齢化が進む、と指摘してきたが、いよいよこれが現実のものとなってきたわけやな。

 若年層が犯罪に走る理由としては、偏差値偏重の学校教育の弊害や地域社会の崩壊などがあるわけだが、高齢者の犯罪が増える理由はどこにあるのかを考えてみよう。

 第1の背景は、いびつな家族構造だ。

現在は核家族が当たり前の時代だが、今の65−70歳の高齢者というのは我が国最初の核家族世代に当たる。このため配偶者が死んでしまうと、とたんに独居老人になる可能性が高い。いくら情報の流通 や医療が発達したとはいえ、老人の独り暮らしは不安なもので、こうした精神的な閉塞感が犯罪の下地となっている可能性が高い。

 2番目は老人の新たな集団・組織化がある。

年金制度が充実しているおかげで最近の老人は経済的にはそれほど困窮しないが、仕事をしなくていい分、彼らは恐ろしくヒマなのだ。で、どうやってこれをつぶしているかといえば、低料金で利用できる地元の健康ランドで日がな過ごすというのが定番だろうが、最近はここにパチンコなどが加わってきた。開店前に並んでいるのは茶髪の若者と白髪の老人ばかりだ。ここには不良がかった老人が集まっている。不良が集まれば悪だくみを考える。これは若者も老人も同じだ。

 3番目は経済的な事情である。

先に年金があると書いたが、これは真っ当なサラリーマン家庭で過ごした老人の話で、自営業者だった老人の中には年金などほとんどもらっていない人も多い。この差はかなり深刻なのだ。経済格差が広がれば、嫉妬とねたみの気持ちが芽生え、やがて幼稚な計画犯罪を夢想する。

 今回の保険金殺人も、まさにこれらの要素が凝縮した事件と言っていいだろう。

高齢者を甘やかしすぎた

 登場人物のほとんどは身寄りのない老人。それがーつ屋根の下で暮らすうちに奇妙な連帯を深め、加害者と被害者に分かれてしまった。主犯の田代容疑者は、かつては栃木県の鬼怒川温泉でコンパニオンの派遣業を営んで いたが、バフル崩壊後の不況で、温泉を訪れる客が激減したため、事業に失敗。家賃も滞納し、呉服代などで多額の借金も抱えていたという。

 こういう連中が金を借りるのは銀行や消費者金融ではなく、恐らく知り合いの小金持ちだろう。定職もなく担保になるものも持たない老人は普通 の金融機関が相手にしないからだ。これはある意味で致し方ないことだが、問題は返済に困った場合だ。

 金融機関からの借金なら最後の最後は自己破産でもして踏み倒すことができるが、知り合いからの借金は人間関係が介在するためにそうもいかない。加えて、こうした金貸しは貸し会業規制法の対象外なので高い金利を取ったり、けっこう荒っぽい取り立てをするケースが多い。精神的に相当追い諸めら れていたことも想像できる。恐らく、保険金殺人を起こして、借金の清算をもくろんだのだろう。

 事件の背景には、こうした複雑な社会的事情があるものの、犯行そのものはいたってシンプルというか、幼稚きわまりないものだった。

 何しろ標的に保険をかけて数カ月で殺している。そもそも親戚でもない人間が老人に保険をかけること自体、怪しいのに、その直後に事故死したとなれぱいやでも怪しまれる。それがわからないのだ。

 しかも、殺害は交通事故を装ったものだが、犯行時に関係者全員が立ち会っていたり、実行犯の謹言によれば「2度ひいた」ということらしい。現場自体も美空ひばりの歌碑がある場所で、観光客も少なくはない。普通 なら人目に付かないようにすることを考えるのだが、そうした配慮がまったくないのだ。大胆というよりも、はっきり言って無謀やで、これは。

 おまけに、自動車の自賠責保険から支払われる1500万円が自分の懐に入らないと知ると、被害者の親戚 にあたる受取人のところに押しかけて「自分が面倒を見ていたのだから保険金をもらう権利がある」と、主張しているというから厚かましいにもほどがある。盗人たけだけしいとは、こういうこっちや。

 なぜ、ここまで大胆で、しかも平然と殺人事件を起こせるのか。その責任は、老人を甘やかしすぎたためだと俺は思っている。確かに、かつての老人は社会的弱者だった。だから年金で経済的に保護し、老人医療 制度で健康も守ってきた。それ自体は悪いことではないが、度を超していた部分もあるだろう。

 世の中、失業者が街にあふれ、働き盛りの世代に自殺者が増え続ける中で、老人だけが勝手気ままに暮らしている。恐らく、老人の中には「自分たちは特別 や」という意識もあるのではないか。

 こうした意識がやがては違法行為を犯しても、世の中は大目に見てくれる、。だから大丈夫、という意識に発展してしまったのではないだろうか。

 しかも、若者や中高年の場合、人殺しをして捕まれば10年、20年と刑務所暮らしが待っている、というのが自制心を生む。ところが老人の場合は、どうせ先は見えている、好きなことをしたほうがいい、 となってしまいがちである。これも犯罪を加速させる背景としてあるのかもしれない。

今後10-15年もすれば団塊の世代が老人になる。そのとき日本がどんな状況になっているか。

 恐らく街中を今の若者のように老人がわが物顔で闇歩しているだろう。老人が集団で「若者狩り」をすることが社会問題になっているか、もしれない。

 冗談ではなく、今のままの世の中が続げば、必ずこうした時代がやってくる。それを避けるためにも、老人の福祉のあり方、そして家 族のあり方をもう一度考え直す時期にきているのではないだろうか。

 

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